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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)

sharon tate

【この投稿はネタバレを含みます。】

クエンティン・タランティーノ監督の9作目にあたる新作が、「シャロン・テート殺人事件、マンソン・ファミリーを題材にしたもの」というニュースが入ってきたのが2017年だったでしょうか。この時は小躍りしました。だって、勝手に期待を込めてタランティーノが『ワイルド・パーティー』みたいな映画を撮ってくれるものとばかり思いこんでしまっていたからです。これまでにチャールズ・マンソンに関する映画は何本も作られてきましたが、B級サスペンスに留まり、満足できるものは少なく、アメリカのテレビ番組『へルター・スケルター』(日本では、前編・後編トータル3時間超(!)のものを90分に編集して劇場公開したもの)が、唯一納得できる作品でした。その『へルター・スケルター』も日本公開版は、事件そのものよりも事件後の法廷でのやりとりまで描かれており(初見の時はしそれが強烈でした。)ようやく納得できるマンソン映画が完成する! と勝手に期待していたのです。

当初から飛配役にレオナルド・ディカプリオの名前は挙がってもり、これも『ジャンゴ 繋がれざる者』で悪徳カルビン・キャンディを演じた経緯から、てっきりマンソン役と思い込み「悪くないんじゃない?」と勝手に夢想していました。時間が経つにつれ「ブラット・ピットにもオファーしたらしい」とか「当時のハリウッド界を描いた作品らしい」「ブルース・リーも出るらしい」とかの続報が入り、どうやら「シャロン・テート殺人事件」をそのままやるわけではないということが分かってきました。しかし、IMDBのクレジットには、スーザン・アトキンス、テックスをはじめマンソン・ファミリーの名前がある! これは、8月9日の夜に起こったことをタランティーノがどう描くのか、というのが最大の関心事になりました。
『ジャンゴ』で黒人奴隷の逆襲、『イングロリアス・バスターズ』でヒトラー殺害という「映画のなかでは歴史改変も許される」といった前歴から、最後はブルース・リーがマンソン・ファミリーをカンフーでやっつけるんじゃないか、というあり得なくもない予想もあがっていましたが、最終的には落ちぶれた役者とスタントマンを中心にハリウッドの光を影を描く、そんな作品になると伝えられましたが、例えどんな作品になろうと楽しみで仕方ありませんでした。監督の作品でいえば、『キル・ビル』よりも『ジャッキー・ブラウン』に近い、そんな感じでしょうか。

次第に予告編なども公開され、一瞬ですがマンソンも映る、スパーン映画牧場らしき場所も映る、この夜のシーンで車が停車いてるのはポランスキー邸?などと予想するのが楽しい時間が過ぎ、公開まで待ち遠しいばかりでした。カンヌでも上映でも概ね好評のようで、何とシャロン・テートの遺族、デブラ・テートも観たうえで納得したというニュースも入ってきました。タランティーノ監督自ら「ネタバレ禁止」令も出て、益々展開が気になります。
僕といえば、たとえ映画のなかで「シャロン・テート殺人事件」がどう扱われていようと、エド・サンダースの「ファミリー シャロン・テート殺人事件」を再読。(後に『マンソン・セズ/マンソンの女たち』の原作と知って吃驚!)シャロン・テート出演作品『哀愁の花びら』『ロマン・ポランスキーの吸血鬼』『サイレンサー/破壊部隊』、事件に関連した『シャロン・テート殺人事件』『へルター・スケルター』を観直し、おさらいして公開を待つことにしました。タランティーノ監督作品ということもあって、国内でも宣伝・キャンペーンも盛大に行われました。

そして、いよいよ8月30日の公開初日が訪れました。SNSなどで散々煽っておいて、初日に観ることは叶いませんでしたが、すぐに鑑賞。これが…

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とても不思議な映画なんです。少なくとも前途の「シャロン・テート殺人事件」は何が起こったのか? 「マンソン・ファミリー」とはどんな組織だったのか? を知っていると知らないでは、(おそらく)映画の印象が全く違うものになるからです。他にも、同時のハリウッド映画界事情や人物や作品、イタリア映画界の事情に詳しければ詳しいほど楽しめる作品でしょう。しかし、劇中は何も起こらない。ただ落ち目の俳優とスタントマンの仕事と日常が進むだけ。ディカプリオ演じるリック・ダルトンの進退、今後を占うエピソードはありますが、それも淡々と進むだけ。
途中、ブラッド・ピット演じるクリフ・ブースが、マンソン・ファミリーのコミューン「スパーン映画牧場」を訪れる場面、それまでと空気がガラっと変わりますが、これもクリフがどんな場所に訪れているのか? ここに住んでいる人たちは何をしているのか? の説明は無く、観る人によては、何の事案だったのかサッパリ訳が分からないと思いますし、知っていれば、この不安感、この先何も起こらないでくれ、と祈る感覚を味わうことができないでしょう。
また、予告編でも流れるシャロン・テートが自身の出演作(『サイレンサー/破壊部隊』)を観るシーン、これも観てると観ていないでは、グッとくる度合いが全然違うと思います。ちなみに、この映画で武術指導をしていたのが、『グリーン・ホーネット』以降、『燃えよドラゴン』をまだ撮る前のブルース・リーで、しっかり、そのシーンも再現されます。
ブルース・リーの描き方について、遺族、ファンから反論、反発があるみたいですが、僕なんかよりも遙かにブルース・リーに詳しい方にも質問してみましたが、答えは「さすが、タランティーノ。当時のインタビューや記事などをよく調べている。」とのことでした。他にもブルース・リーとモハメド・アリ、対決していれば? のエピソードもあり、これがまた漫画「刃牙」を地で行くエピソードで、かえってブルース・リー幻想が高まるくらいでした。

そして、話は一気に半年後の8月8日を迎えます。「シャロン・テート殺人事件」が起きた前日、まだ繁栄しているハリウッドの街並み、当時の映画館の風景、登場人物がそれぞれ岐路に立つシーン、流れるローリング・ストーズの「アウト・オブ・タイム」が相まって涙が止まりません。何ともいえない「多幸感」この言葉に尽きます。

 ”ベイビー、君は気づいてないけど、もうすぐ手の届かないところにいく。   君に(そして僕らにも)時間はもう残されてないんだよ。”

この後、殺害されたシャロン・テートが運転する車。勿論、この時、終わりが来るなんてこれっぽちも思ってないんですよ。リックは自分のキャリアの終焉、盟友クリフとの別れを自覚していたはずですが。
そして、史実上では事件の起こった8月9日の夜。ここでもマンソン・ファミリーは何の説明もなくやってきます。台詞で何故来たかのか少しあるくらいです。
最後は宣伝文句にもある「ラスト13分。映画史を変えるのは―この二人」「映画史を変える」と言ってしまってるのはどうかと思いますが(タランティーノの前歴から想像できる人は想像してしまうので)それでも予想、心配していた危惧をはるかに超える(超えていなくても)エンディング。この後、映画のなかで続く時間をかみしめながら、タランティーノからの贈り物、おとぎ話の終焉です。

ブラピ、レオ様、目当てで観た人も多いでしょう。でも、それで映画を観ている間だけでも、皆がブルース・リーやシャロン・テートのことを意識することが嬉しい。
ちょっとでも、下世話な犯罪映画を期待していたことが恥ずかしくなるくらいの幸せな傑作です。以前、インタビューで「10本目で引退する」と答えていたタランティーノ監督、次回作で引退? まだまだ撮り続けてほしです。そういう使命みたいなものがあると思います。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)
ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD
http://www.onceinhollywood.jp


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